調布市武者小路実篤記念館

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コラム泉

「コラム泉」は、実篤の思い出、実篤記念館の活動についてなど、
ゆかりの方々にご寄稿いただいたもので、
過去に館報『美愛眞』に掲載されたものを、再編集し掲載しております。

*日程や名称、執筆者の肩書きは、発行時のものです。

館報『美愛眞』8号 より2005年3月31日発行

さびつかない志をこれからも・・・
倉 和男(神奈川文学振興会・元事務局長、評議員)

今年は武者小路実篤生誕120年にあたり、実篤記念館ではそれにちなむ展示が行われるという。そのことはそのまま20年前の懐古に私を引き戻す。日本近代文学館が西武美術館とともに、「生誕百年 武者小路実篤と白樺美術展」を東京と大津で開催したのが昭和59(1984)年、それに追補を加えて、その翌年には、開館直後の神奈川近代文学館が同展を開催した。それまでの展示の集大成のような大がかりな展観であった。武者小路辰子さんらご遺族をはじめ、新しき村美術館、そして調布市も、市と郷土博物館、実篤公園が出品協力者に名を連ねている。まだ記念館の名は登場しない。私は日本近代文学館の担当者の一人として、ご遺族や、のちに記念館の館長となる調布市の堀公彦さんとも知己を得た。さらにこの直後、神奈川へ出向、連続的にこの展覧会に関わる因縁となったので、公私ともに忘れることのできないエポックなのである。

その後、記念館が設立された。中村稔氏(日本近代文学館理事長・全国文学館協議会会長)が、著書『文学館感傷紀行』に書かれ、この館報でも繰り返し触れられているように、武者小路実篤記念館は個性的な運営によって、全国に誇る文学館として歩んできたと思う。中村氏に全く同感なので、敢えて繰り返さないが、保存と展示に関する独特の見識は、堀氏をはじめ学芸員の福島さとみさんや伊藤陽子さんらの持続的な努力と薫陶の賜だと敬意を表したい。市民の理解と関心がさらに高まってほしい文化施設だとエールを送りたい。

先の大展覧会の時の縁から、中川孝氏蒐集の実篤文庫が、神奈川近代文学館に寄贈され文庫となったが、そんな経緯を含めて両方の館が極めて良好な友好関係を育み、文庫資料が記念館の展示・研究資料として活用されていることなども、スタッフの懐の深さ、見識の高さを示している証左だと、私はおりにつけ頭が下がる思いなのである。

世田谷在住の頃、久しぶりに記念館を訪ねるべく、バスと徒歩で向かった。近所まで来て、慣れているはずの道に迷い、標識板を見て思案している私に、小学5,6年生ぐらいの少女が話しかけてくれ、記念館ならと先に立って川べりをずんずん歩いて行った。到着すると受付の女性に会釈をして、まっすぐ背筋を伸ばして戻っていった。その親切が、スタッフの人達の志にダブって見えてくる。調布市の少女よありがとう、と思わず胸が熱くなったものである。