調布市武者小路実篤記念館

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コラム泉

「コラム泉」は、実篤の思い出、実篤記念館の活動についてなど、
ゆかりの方々にご寄稿いただいたもので、
過去に館報『美愛眞』に掲載されたものを、再編集し掲載しております。

*日程や名称、執筆者の肩書きは、発行時のものです。

館報『美愛眞』6号 より2004年3月31日発行

調布市民の誇るべき実篤記念館
中村稔(日本近代文学館理事長・全国文学館協議会会長)

調布市ないし調布市民は武者小路実篤記念館が調布市ないし調布市民が誇るべき、全国的視野からみてまことに特異な、すぐれた文学館であることをどこまでご承知なのか、私は疑問に思っている。

いま日本全国に数え方によっては三百とも四百ともいわれる文学館あるいは文学者の記念館があるが、そのうち活発に活動しているのは七十館ないし八十館であろう。その全部が全部というほど必ず常設展示室を備え、年に数回の催しのための企画展示室を備えている。特定の地域の文学館であれば地域ゆかりの文学者たちを網羅的に万遍なく、特定の個人文学者の記念館であればその文学者の生涯にわたる業績を洩れなく、紹介するのが常設展示のつねである。だから、常設展示はつねに平均的、単調で、興趣に乏しい。しかも、常設展示に多額の費用を投じるので、十年、あるいはそれ以上にわたり展示替えできない。だから、開館当初こそある程度の来館者があっても、たちまち閑古鳥が鳴くこととなる。東京都内やその近郊の文学館のほとんどすべてが年二、三回の企画展のときしか来館者のにぎわいを見ないのが実状といってよい。

武者小路実篤記念館のばあい、こうした常設展はないにひとしい。そのかわり、特別展をふくめ、年八回の展示替えをしている。武者小路実篤は文学者としてはもとより、美術界にも大きな影響を与え、思想家としても大きな足跡を残した。その交友関係までふくめれば、実篤の業績を知る切り口は無数にある。年八回の展示替えによっても語り尽くせない巨大な存在である。常設展で実篤を示そうとすれば浅薄、通り一遍のものにしかならないことは目に見えている。

それ故、実篤記念館にはいつ訪ねても新しい発見、新しい魅力がある。これは館長以下職員の方々のたゆまぬ努力の結晶である。年八回の展示替えには、乏しい予算の中で、莫大な労力が必要だし、また、実篤のひろくふかい世界の探求も必要である。

私は武者小路実篤記念館は個人文学者の記念館としての理想的な在り方を示していると考えている。このような記念館は全国でも唯一、他に類を見ないのである。