調布市武者小路実篤記念館

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コラム泉

「コラム泉」は、実篤の思い出、実篤記念館の活動についてなど、
ゆかりの方々にご寄稿いただいたもので、
過去に館報『美愛眞』に掲載されたものを、再編集し掲載しております。

*日程や名称、執筆者の肩書きは、発行時のものです。

館報『美愛眞』13号 より2007年10月1日発行

「仙川の家」
服部昌也 坂倉建築研究所

この夏、記念館隣接の実篤公園にある旧実篤邸の耐震補強工事が行われました。実篤公園は実篤さんの住まいと庭がそのまま調布市に寄贈されたもので、記念館と一体となって実篤さんの活動を体感をもって伝える要素となっています。私は建築意匠のコンサルタントとしてこの事業に関わってきました。

今回の工事は、築50年の建物を訪れる人々の安全性を確保するために行われました。この建物自体は、古いお寺のように建物保存する文化財的な価値はあまり高くありません。しかし、実篤さんの制作現場の本物が見られる、また当時の生活感が実体験できる展示品としては他に類を見ない価値があるといえます。

工事は、2つの部分に分けて改修することにしました。1つは実篤さんの制作の場をそのまま保存展示する部分、そこには活動当時の状態で、広げられた道具や、床の絵の具の汚れなどがそのままに見られます。この部分は今回全く手を着けず、当時のままの現状を維持することとしました。もう1つは、一般に訪れた人々が実篤さんの暮らした家の中で文化的活動を行ったりして当時の生活感を実体験できる部分です。こちらは一旦解体、更新しても良いのですが、ただし工法・材料は当時のものと同じもので行える範囲に限って着手することとし、当時の住宅が持っていた職人の業や自然素材の風合いを継承するものとしました。

実際の工事では、後者の部分の構造的に主要な土壁を一度撤去し、補強を入れ込み土壁を作り直すことが主な要素になりました。従来の工法に詳しい左官屋さんと壊した壁の破片を調べて、元の壁の風合いを出来るだけ再現するように材料の選択に工夫しています。現在の一般住宅に使われる化学樹脂入りのものと比べ、時間も手間も掛かります。40坪強の住宅ですが、数度の塗り重ねと乾燥期間を要し、土壁の製作だけで2ヶ月ほどの期間を要しました。また仕上り具合も、今の建材なら誰がやっても短時間で均一に仕上がるのに比べ、その日の気候や塗り手の加減によって、斑が出てしまいます。そのあたりを職人さんは調整しつつ、ばらつきはありながらも全体として美しく見える仕上げを作っていきます。

最近"ロハス"ということが良く聞かれます。ロハスの環境保護と健康な生活を最優先に考えるライフスタイルは、実篤さんの生活観に合致していると思います。緑と水の豊かな庭と一体になったこの住まいはロハスの見本のような住宅です。現代の住宅の持つ気密性、断熱性などの性能は劣りますが、自然素材を使った風合いあるインテリア、開放的なつくりは、上質で清々しい心地よさを感じさせてくれると思います。現代の一般的な住宅とは異なる快適性を持ったこの住まいは、現代の人にとっても憧れの家と思えるのではないでしょうか。