調布市武者小路実篤記念館

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コラム泉

「コラム泉」は、実篤の思い出、実篤記念館の活動についてなど、
ゆかりの方々にご寄稿いただいたもので、
過去に館報『美愛眞』に掲載されたものを、再編集し掲載しております。

*日程や名称、執筆者の肩書きは、発行時のものです。

館報『美愛眞』16号 より2009年3月31日発行

「卒業の季節に広がる実篤先生のご縁」
山花郁子(児童文学者)

3月1日、武蔵野公会堂ホールにおける「武蔵野市子ども文化・スポーツ表彰式」に出席しました。今年度初めて子ども文芸賞第4部門「読書感想作品」の審査を務めた関係で受賞作品の講評をすることになっていたからです。

受賞者の晴々と嬉しい表情に心和ませながら、実は選者の立場としてのとまどいもいなめずといった心境の私。ふと頭に浮かんだのが実篤記念館発行『ともだち』の文集でした。実篤先生の代表的作品『友情』にちなんで、「ともだち」をテーマに募集した市内小中学生の詩・作文集ですが、いつもここに至るまでの選考経過の任の重さを痛感せずにはいられないからです。たくさんの応募作品からほんの僅かの受賞作を決めるまで、ほんとうに頭を悩ませるのです。もちろんずば抜けて光る作品は問題ないのですが、ほんの僅かの差で迷うことも多く、そんなときは最終的に選者の好みが反映されていないだろうか等かなり神経を使うものなのです。

昨年この文集の1冊を長野県聖高原在住の木彫芸術家・新海秀さんに贈って感想を求めたことがあります。彼はいつも山の新鮮な言葉を送り届けてくれる私の読書友だちです。

「一読して水準が高いなぁと驚きました。小学生の部は本当に子どもたちだけで書いたのかなあ、という気もしてくるほど立派な文章や詩です。きつい言い方をすると、きれいに泥を落とされ選別された出荷前の野菜という雰囲気も感じてしまいます。

中学生のものは自分自身とまじめに向き合う姿勢がよく伝わってくるものが多く、題材もバラエティに富んでいて好感を持ちました。先生たちの手のひらからはもう飛び出て、危なっかしいけれど自分たちの足で歩き始めているんですね。とにもかくにも982編の中掲載されたのは74編。僕自身小さい頃決して文章を書くことが苦手ではなかったですが、感想文を書いていつも選ばれなくてそのうちなんとなく苦手意識が昂じてきて、そこを克服していくのは結構大変だったという過去があって…。」

正に私の心境を言い当てたようなメッセージですが、しかしと、私は選者の言い分も聞いて貰うことに。「新海さんは新海さんらしく素敵な山の芸術家になってるじゃありませんか、文芸賞をもらわなくても子どもの個性はどこかで磨かれるのでは」と。

卒業の季節3月!大人も子どもも全国たくさんの自分の卒業式を迎えて、新しいスタートをきるでしょう。信頼しあえる友情を築くチャンスでもあります。

3月2日、私はロシアに飛びます。「仲よきことは美しき哉」実篤先生のことばを胸に科学アカデミア図書館にいる旧友モロキシナ・オリガさんとの再会を楽しみに!