調布市武者小路実篤記念館

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コラム泉

「コラム泉」は、実篤の思い出、実篤記念館の活動についてなど、
ゆかりの方々にご寄稿いただいたもので、
過去に館報『美愛眞』に掲載されたものを、再編集し掲載しております。

*日程や名称、執筆者の肩書きは、発行時のものです。

館報『美愛眞』31号 より2016年9月30日発行

淡彩画『この道』ジグソーパズル
入里 悠太
(株式会社エポック社 ジグソーパズル新規企画営業室)

ご存知の読者様がいらっしゃると大変嬉しいのですが、野球盤やシルバニアファミリーなどを発売している玩具メーカーのエポック社と申します。なぜおもちゃメーカーが突然現れたのかとお思いでしょう。実は武者小路実篤記念館オリジナルジグソーパズルを制作したご縁がありまして、コラムのお話をいただきました。

もとはといえば、とあるアニメ映画のポスターをジグソーパズルで商品化したことがきっかけでした。ゴッホの「ひまわり」が題材の映画だったのですが、そのとき所謂「芦屋のひまわり」は実篤先生の依頼で購入されて来日したと初めて知りました。実篤先生といえば作家のイメージが強かったので、美術に関わっておられたことを意外に思いましたが、よくよく調べてみますと晩年にはご自身でも色紙に絵を描いておられたということではありませんか。折しもジグソーパズルに良さそうな題材を探していました、早速記念館にお電話差し上げて、オリジナルジグソーパズルを制作することになりました。

さて実際にジグソーパズルを制作しますと、どれくらい難しいか気になります。そこで『淡彩画「この道」』108ピースを試しに組んでみたところ、意外な壁に突き当たりました。色紙には3つも「道」があり、どれがどの位置なのかわからないのです。

そこで手元のピースとパッケージの見本をじっくり見比べますと、それぞれの形の微妙な違いが見えてきました。最初の「道」は、とめ、はね、はらいのはっきりした書き方、2番目は線が細い、最後の「道」は線が太く、力強い印象…同じ人物の手による同じ漢字でも、ずいぶんと印象は違うのです。この道より我を生かす道なしというのですから、この道は一本道なのでしょうが、一本道だからといっていつも楽々と歩き続けられるような平坦な道ではなく、所々で見える景色は違ったのかもしれないな、と勝手に想像してしまいました。

本当のところはわかりません。晩年の作ということもあって、あるがままに描かれたものが読み手に意味ありげな印象を与えるのかもしれません。しかし、眉唾とはいえ、平日の昼間からたった3片のジグソーパズルのピースを見つめて文学しているような人間は自分ぐらいのものだろうと、そんな空想をして、お目出たい気分になっていました。