調布市武者小路実篤記念館

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コラム泉

「コラム泉」は、実篤の思い出、実篤記念館の活動についてなど、
ゆかりの方々にご寄稿いただいたもので、
過去に館報『美愛眞』に掲載されたものを、再編集し掲載しております。

*日程や名称、執筆者の肩書きは、発行時のものです。

館報『美愛眞』34号 より2018年3月31日発行

「特別展 人間萬歳」で見えてきたもの
青井 美保
(高鍋町美術館学芸員)

ご存じの方も多いかと思いますが、武者小路実篤が創設した日向新しき村は宮崎県児湯郡(こゆぐん)木城町というところにあります。私は、児湯郡で唯一の公立美術館、高鍋町美術館の学芸員をしています。

かねてより、「武者小路実篤と新しき村」にスポットを当てる機会をもつべきではないかと宮崎県内の美術関係者や文化人のなかで話題に挙がっていましたが、来年度の新しき村創設100周年を目前に今年度11月、ようやく当館での特別展が実現しました。高鍋町美術館では年間をとおして約4本の企画展を開催しており、そのジャンルや来館する年齢層も毎回全く異なりますが、地域に根差した企画をするという使命が共通しています。

今回の特別展での借用先で唯一学芸員さんがおられたのが実篤記念館でした。実篤記念館の学芸員の皆さんには企画実現にあたってたくさん力をお借りしました。高鍋町美術館で特別展を開催するにあたって、「自館らしい展示とはなにか」ということにはずっと悩まされました。宮崎では大規模な展覧会として初といっても過言ではありませんでしたので、武者小路実篤と新しき村についてその全貌を見渡せる展示というのが理想でした。しかしながら、武者小路実篤という人は小説家・詩人・劇作家・画家…といくつもの顔をもつ人でしたので、作品の量も膨大です。実篤記念館の学芸員さんたちと相談しながら、「実篤の画家としての一面」と「新しき村の動向」の2つにスポットを当てることとしました。

新しき村については、歴代の村の会員さんの中から作品を厳選し、生活のなかに色濃く芸術が取り込まれている様子を伝えることができればと考えました。展示室の中央部分には実篤作の油彩画・野井十(村内会員)像と川島伝吉(村内会員)像(※どちらも埼玉新しき村蔵)があり、そこに呼応するように野井十の描いた日向新しき村(油彩画)と川島伝吉の描いた日向新しき村(水墨画)(※どちらも日向新しき村蔵)を並べて展示するゾーンを設けました。実篤が村とともに生き、また村の会員たちもそれぞれに実篤を思いながら生活していく姿を、展示から感じ取っていただきたかったのです。また、初めて武者小路実篤や新しき村に触れる方にも分かりやすいようにと、ほとんどの作品を時系列に展示しました。私自身も展示室で感激したのは、実篤の作風が年代を追って大きく変化する様子がはっきりと実感できたことです。

初期の書作品や絵画作品には自信のなさが感じられ、支持体のうえに筆をおくようにえがくことで形にしている様子がうかがえます。それが徐々に変化を遂げ、晩年の作品の伸びやかなこと!自らの歩んできた道をありのままに受け止めるようにどっしりとしており、それでいて大胆な様子さえ見受けられます。根底に流れる実篤の素直な人柄はそのままに、たゆまぬ努力が成し遂げた変遷だと感じました。硯に穴が開くほどえがきつづけたから、ここまで花開くことができたのですね。ちなみに、日向新しき村に向かう途中の鹿遊(かなすみ)茶屋という食事処では、村で育てられた放牧豚を堪能できます。実篤がほれ込んだ宮崎という土壌を体感しに、宮崎に遊びにこられてみませんか。