調布市武者小路実篤記念館

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コラム泉

「コラム泉」は、実篤の思い出、実篤記念館の活動についてなど、
ゆかりの方々にご寄稿いただいたもので、
過去に館報『美愛眞』に掲載されたものを、再編集し掲載しております。

*日程や名称、執筆者の肩書きは、発行時のものです。

館報『美愛眞』37号 より2019年9月30日発行

「人間万歳」上演を終えて
西沢栄治
(演出家・JAM SESSION主宰)

みなさんこんにちは。わたくし、舞台の演出をやっておりまして、シェイクスピアやギリシャ喜劇など古典の上演を中心に活動していますが、今年の春に上演させていただいたのが、武者小路実篤の戯曲でした。JAM SESSION.15「人間万歳」(令和元年(2019年)5月14日から19日、アトリエファンファーレ東池袋)がそれであります。

登場人物は神様と天使たちのみ。彼らが遠い宇宙から地球とそこで生きる人間たちを見つめている、という壮大なスケールでありながら、コメディ仕立ての軽やかな作品です。

ムシャノコウジサネアツのニンゲンバンザイって、もうその音色だけで面白そう!と無邪気にとびついてみたものの、これがかなりの難題でした。公演を終えて振り返りますと、とても困難な道のりだったなー、というのが正直な感想。ゴールは見えているのに、そこまでなかなかスムーズに進ませてくれない意地悪な台本でした。なんたって、ひとつのセリフが長い!そして観念的!劇の構成もオムニバス的にいくつもの場面が展開されるし、これを立体化して、なおかつ飽きさせずに観せるのは至難の業なのであります。私は稽古場で毎日、「実篤のバカ!」と絶叫しておりました。誰がこんな台本見つけて来たんだ!私だ!…。

 それでも俳優たちとスタッフの踏ん張りにより、どうにかこうにか、かたちにしてみると、すると、これまた不思議なもので、あらゆる場面から作者のスピリットが溢れ出してきたのです。

この「人間万歳」という芝居、そのタイトルとは裏腹に、ラストシーンはわれわれ人類の末路を考えさせるものになっています。地球とよく似た星と、そこに住む人間によく似た生き物、それえらが滅びゆく最期の光景を、神様たちが語り合うのです。もちろん悲劇的には終わりません。作家のメッセージはこうでしょう。僕たちはいつか終わる、けれどそれをただ悲観するだけでなく、だからこそ今ある命を、人生を、そしてこの星の奇蹟を謳歌せよ。実篤は私達にそんなふうに言っているような気がします。

本番では、大音量の音楽の中、役者たちが躍動し、セクシー女優やふんどし男?が暴れまわるエンターテイメントを繰り広げました(あくまで原作に忠実に!)。客席は笑いにあふれ、これが100年前に書かれたものなんかと、驚きの声を多く耳にしました。やはり、決して古臭くなんかない、むしろ混迷のこの時代に上演するにふさわしい作品なんだと再認識。実篤記念館の皆様にもよろこんでいただき、令和という新たな時代の幕開けにふさわしい公演となったと思います。サンキュー実篤。

今回見逃して悔しい思いをしているそこのあなた!実篤狂言は傑作ですよ。われらJAM SESSIONが再演の折りには、是非とも劇場へお越しください。