調布市武者小路実篤記念館

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所蔵資料から

「所蔵資料から」は、実篤記念館で所蔵する作品や資料の解説、
実篤にまつわるエピソードなどをご紹介する記事で、
過去に館報『美愛眞』に掲載されたものを、再編集し掲載しております。

*日程や名称、執筆者の肩書きは、発行時のものです。

館報『美愛眞』18号 より2010年3月31日発行

『白樺』の美術活動を語る資料
*ハンス・トーマ「ハルピエー(Harpye)」(複製版画)
(リトグラフ 38・0×35・0㎝)
*岸田劉生「岸田劉生作品個人展覧会ポスター」
(木版画 67・0×24・0㎝)

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今年は武者小路実篤らが雑誌『白樺』を、明治43(1910)年に創刊してから100年を迎える。

文学、美術に新しい流れを生み出した彼らの活動の中でも、白樺主催の美術展覧会や白樺美術館設立運動は重要なものにあげられ、当館にはゆかりの資料が収蔵されている。

ひとつは、「泰西版画展覧会」に出品された、志賀直哉旧蔵のハンス・トーマ「ハルピエー」である。

「泰西版画展覧会」は明治44年10月11日〜20日、赤坂・三会堂にて開催され、オリジナル作品138点、複製または写真51点の計189点が出品された。白樺同人たちが当時、興味を持っていた作品を盛り込んだ内容で、フォーゲラー、ヴァロットン、ビアズレー、ムンク、クリンガーなど西洋美術を紹介し、多くの若者たちに影響を与えた展覧会としても知られている。

ハンス・トーマはドイツの画家で、この作品は農家の庭先を描いた穏やかな風景画で、展覧会では彼の作品は他に3点が展示されている。志賀家では、題材もあって子供部屋に掛けられていたという。

この資料は版画(リトグラフ)による複製で、当時の目録を見ると、目録番号153、「額縁共五圓にて御譲り可致候」と書かれている。当時、平均的な大工の日当が1円という時代であったことから、かなり高額な価格である。現在も、古いがしっかりとした木製の額に入れられており、目録にある当時の額縁と考えられている。

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このほかにも、大正7年の第八回白樺美術展に出品された写真版複製のうちギリシャ彫刻「ソホクレス」(目録一〇)、ティントレット「若き男の肖像」(目録一二六)など9点が、実篤が旧蔵、あるいは実篤から日向新しき村に渡り、創立期の村内会員・松本広吉が保存していた複製資料の束から見つかった。

これらの複製画の裏面には、所蔵者名と、目録番号が記載されている。実篤ばかりでなく、志賀や小泉鐵が所蔵していた複製画にも同様の記載があり、これらから、白樺主催の展覧会は、同人たちの所蔵していた複製画や写真版などを持ち寄って開催していたことが確認できた。

白樺主催美術展覧会では、西洋美術の紹介以外に、若手画家たちの展覧会も開催しており、当館では、創刊十周年を記念して、大正8年4月に開催された「岸田劉生作品個人展覧会」のポスターを所蔵している。

これは東京展のものだが、同図案で中の文字を変えた京都展のポスターが、東京国立近代美術館に収蔵されている。

このポスターは木版多色刷りで、図案は岸田、木版制作は『劉生図案画集』制作でも活躍している伊上凡骨と考えられる。『白樺』の美術活動を伝える作品であるとともに、岸田の装飾性豊かな作品としても貴重なものである。

(当事業団首席学芸員 福島さとみ)