調布市武者小路実篤記念館

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トピックニュース

「トピックニュース」は、実篤記念館の事業活動をご紹介する記事で、
過去に館報『美愛眞』に掲載されたものを、再編集し掲載しております。

*日程や名称、執筆者の肩書きは、発行時のものです。

館報『美愛眞』12号 より2007年10月1日発行

旧実篤邸を地震から守る
〜耐震補強工事を実施しました〜

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昭和30年に建てられた武者小路実篤の生活と仕事の場である旧邸を、永く後世に残していくために、当館では折々に状態を調査し、その結果に基づいて保存のための対策を講じています。

その一環として、平成17年度に耐震診断を実施したところ、地震の規模によっては倒壊する恐れがあると診断されました。この結果を受けて、平成18年度に耐震補強について建築や構造の専門家とともに検討しました。

旧邸の耐震性で問題があるのは、壁の強度、柱の固定と、南側のバルコニーが傾くことによって本体に加重がかかることでした。これを改善するために、壁内に厚さ9mmの構造用合板による補強壁を設置し、床下の柱と柱の間を梁でつなぐ事でお互いを支え、バルコニーは既存のものを撤去して建物に影響を与えない独立した形で新たに作り直すこととなりました。

補強に当たっては、これまでの旧邸保存の考え方を継承し、実篤が暮らした当時の姿にできるだけ変更を加えず、可能な限り当時の工法や材料を用いて行うことが前提です。

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先に挙げた工事を行うためには、施工箇所の壁や床、天井を一旦撤去する必要があります。そこで、それらが復旧可能であるかの確認を行いました。その結果、屋内の京土壁、外壁の色モルタル掻き落としと、豆砂利洗い出し仕上げのバルコニーは、同等の工法と材料で作り直すことが可能だが、ロビーと応接間の組木の床と、居室の更紗布貼りの天井、洗面所の網代天井は、復旧もしくは同等の工法や材料で作り直すことはできないと判断されました。

そこで、床下の柱の補強はもぐって工事が出来る箇所に限定し、居室と洗面所の壁の補強は天井と床に影響のない範囲に限って行うことで、復旧不可能な部分には手を付けないこととしました。また、壁についても、実篤の活動を伝える部屋の側は極力残し、逆の面に当たるロビーや外壁側から施工することとしました。

このように制約の多い条件での設計となりましたが、耐震強度を「一応倒壊しない」レベルまで引き上げる事が出来ました。

復旧可能と判断された箇所の中でも、特に京土壁は、調査の段階で、当時としても高い技術を持った職人の施工による、旧来の左官技術のよさが十分に表現されたものであることが確認されました。作り直しに際しては、材料は既存と同じく土・砂・藁など天然の素材のみを使い、伝統左官技術に卓越した職人を特に指定して、施工しました。合成の壁材が主流の現在、技術をもつ職人がきわめて少なくなっているとのことで、旧邸はその成果を残す役割も果たすことになります。

今回の耐震補強工事は、壁の中の構造など普通には見えない部分があらわれ、また伝統左官技術による施工の貴重な機会でもあることから、旧邸保存対策の記録の意味でも、映像を撮影しました。映像は改めて番組に編集し、館内でご覧いただけるようにする予定です。

工事は9月末に完了し、10月6日から旧邸の公開を再開します(予定)。実篤の息づかいが残る旧邸のたたずまいを守るために、これからも努力してまいります。

旧実篤邸内部の一般公開

毎週土・日曜日、祝日の午前11時〜午後3時
※雨天の場合は中止。
※平日はベランダから窓越しに邸内をご覧いただけます。