調布市武者小路実篤記念館

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トピックニュース

「トピックニュース」は、実篤記念館の事業活動をご紹介する記事で、
過去に館報『美愛眞』に掲載されたものを、再編集し掲載しております。

*日程や名称、執筆者の肩書きは、発行時のものです。

館報『美愛眞』15号 より2008年9月30日発行

「愛と死」の原稿が当館へ
〜信頼を受け止めて、保存・公開して参ります〜

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「愛と死」は、「友情」と並ぶ武者小路実篤の小説の代表作のひとつです。実篤はこの作品で昭和15年に菊池寛賞を受賞し、昭和20年代〜40年代には繰り返し映画化やテレビドラマ化されました。現在も複数の出版社から文庫本が刊行され、若い世代にも読み継がれています。

その「愛と死」の自筆原稿が、このたび当館へ寄贈されました。

「愛と死」は、昭和14年に雑誌『日本評論』7月号に発表されました。その自筆原稿の所在が明らかになったのは、昭和60年のことです。この年10月に開館した当館の開館記念展に、所蔵者の庄司和晃氏(大東文化大学名誉教授)が来館し、そこで折しも実篤生誕100年を記念して企画された『武者小路実篤全集』(小学館 全18巻 昭和62年12月〜平成3年4月刊行)の編集部が、自筆原稿など実篤に関する資料の情報提供を広く呼びかけたパンフレットを見かけ、ご連絡くださったのがきっかけでした。

自筆の原稿には、執筆した際の作者の思考の跡が残っています。「愛と死」では、題名に何度も手が加えられ、「生者死者」→「生死」→「愛と死」と変遷したことがわかります。また、実篤は主人公が亡くなる場面で「かきながら悲しくなって涙がとめどもなく流れるのだった」。(新潮社版『武者小路実篤全集』第五巻後書き 昭和30年2月)と回想していますが、原稿には数枚にわたって涙でインクが滲んだ箇所があり(131枚目ほか)、そこからは執筆風景までが浮かび上がってくるようです。

一五六枚全て揃った原稿に残る書き直しの跡や、発表誌や過去の全集と照らし合わせることで明らかになった修正や変遷などを、全集収録の際に反映出来た事も、原稿発見の成果でした。

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一方、当館としては、昭和62年に開催した特別展「愛と死」で原稿をお借りして展示し、これがこの原稿の初公開となりました。その後も、平成3年4月に全集完結を記念して開催した「一筋の道―実篤の文学世界」展や、平成13年10月の「写真に見る実篤とその時代Part2昭和2年〜20年まで」展など、実篤の文学や昭和時代の活動を紹介する展覧会、また平成17年の調布市政施行50周年・当館開館20周年記念特別展「筆の向くまま〜所蔵文学資料名品展」への特別出展など、節目となる特別展で、度々、所蔵者より借用し展示してきました。

こうした長年の交流の中から、本年4月に、所蔵者から寄贈をお申し出いただいたものです。

ご寄贈いただいた原稿とともに、長く大切にしてこられた所蔵者の想いを受け止め、託された信頼への責任の重さを噛み締めながら、日本近代文学史に残る作品の自筆原稿を、次の世代に伝えるべく保存し、また特別展の機会などに公開して参ります。